私はパンの耳が大好きだ。
貧しい片親の家庭に育った私は、母親から朝早く近所のパン屋の店先で木箱に入れられたパンの耳をよく買いに行かされた。
それは食パンをサンドイッチに使うために四方の硬い部分を切り落としたあれである。
耳は大きな木箱に無造作に入れられて、お世辞にも清潔な感じはしなかった。
それでも安いから仕方がない。
ただ、中には端っこにちょっとイチゴジャムの残りが付いているものがあった。
私はそのジャムが付いたパンの耳のにおいがたまらなく好きだった。
当時、自家製造のパン屋が多かったので買ったパンはそのまま紙袋に入れて渡してくれた。
もう今はそういったところは少なくなった。
しかし、店頭に並べられている商品が焼いたそのままの姿で置いてあるのは今も変わらない。
ただ、コロナ禍のこの時期では清潔さを保つためにあらかじめビニールなどで包む店が多くなった。
私はパン屋に行くと、ジャム付きのパンの耳が少しでも多く入っている紙袋をいつも目を皿のようにして探していた。
滅多にそんな日はなかったが、それでも見つけたときには自転車の前カゴに大事そうに仕舞い、喜んで帰ったものだった。
そんな日は弟たちも喜んだ。
今でもパン屋のパンを焼くにおいが好きだ。
我が家でも良くパンを焼く。